なぜ抗がん剤は徐々に効かなくなっていくのか

現在、がんの標準治療として用いられる抗がん剤。長期間使用していると徐々に効かなくなってくるという問題もあり、このことは今日の抗がん剤治療における課題であると考えられています。

一体なぜ抗がん剤抗がん剤を使い続けると、だんだんと治療効果が薄れていくのでしょうか。その理由と最新のレポートをご紹介します。

「薬物耐性」により抗がん剤が効かなくなるとは

抗がん剤が効かなくなってくる最大の原因は、「薬剤耐性」であると考えられています。これは、がん細胞が抗がん剤の攻撃に耐え抜く性質です。

薬剤耐性には、初めから抗がん剤が効きにくい「一次耐性(自然耐性)」と、初めは有効だった抗がん剤が治療を重ねていくうちに効かなくなっていく「二次耐性(獲得耐性)」の2種類があります。「抗がん剤が徐々に効かなくなる」というのは、この「二次耐性」のケースです。

最初の抗がん剤投与でがんをいったん弱めることができたケースでも、がん細胞が生き残ることがあります。そのがん細胞が薬剤耐性を身につけると、ふたたび増殖の勢いを得ます。これが、薬剤の「二次耐性」です。

このような状態になると最初の抗がん剤では効き目がないので、化学療法を継続する場合、別の抗がん剤の使用を考えることになります。では、一体なぜこのようにがんの治療を困難にしてしまう「薬剤耐性」が現れるのでしょうか。

なぜ、がん細胞には薬剤耐性が生じるのか

がん細胞は、細胞内の様々な変化により、薬剤耐性を獲得しています。現在のところ、次のような変化が薬剤耐性の仕組みとしてあげられています。

• 抗がん剤を細胞外に排出する機能が盛んになる
• アポトーシス(細胞の自殺)の抑制
• 抗がん剤の標的となるたんぱく質の構造が変化し、標的から外れる
• 抗がん剤の働きを助ける酵素の活性が減少
• 抗がん剤を分解する酵素の活性化

これらの中で特に1~3は、薬剤耐性を持つ大部分のがんに当てはまるため重視されています。

たとえば、2. アポトーシス(細胞の自殺)の抑制について、見てみましょう。

一般的に抗がん剤は、がん細胞内のDNAを傷つけることによって、がんを死滅させます。ところが、薬でDNAが傷ついてもがん細胞が死なない場合があり、それが薬剤耐性の生じる理由となっています。

「アポトーシス(細胞の自殺)の抑制」も、その原因の1つです。人間の細胞には、DNAが傷つくなどの異常が起こると自ら死んでしまう「アポトーシス」という機能があります。ところが、なんらかの原因により、がん細胞においてこの機能が失われると、薬でDNAが傷ついても、がんが死なずに生き延びてしまうのです。

また最近の研究では、この他にも、DNAが傷ついてもがんが死滅しない原因が発見されています。次にそれを見ていきましょう。

オキサリプラチン(大腸がん用の抗がん剤)に対する薬剤耐性研究の成果

昨年、バルセロナ大学教授であるマネル・エステラー氏は、米国国立がん研究所のジャーナルに、オキサリプラチン(大腸がん用の抗がん剤)に対する薬剤耐性研究の成果を発表しました。

同教授らは、オキサリプラチンを投与し始めたときには効き目があったがん細胞でも、後から同じ薬が効かなくなるケースに注目しました。研究の結果、薬剤耐性のあるがん細胞では、SRBC という遺伝子が不活性化していることを発見しました。同教授によると、このSRBC遺伝子が不活性化していると、オキサリプラチンでがん細胞のDNAにダメージを与えても、その修復があっという間に行われ、その結果がん細胞が死ななくなるということでした。

このことは、SRBC遺伝子の活性を投薬前に調べることにより、オキサリプラチンが効くかどうかをあらかじめ判断できる可能性があることを示しています。また、他の薬剤を用いてSRBC遺伝子の活性を回復させ、オキサリプラチンの効き目を取り戻すという治療法も確立できるかもしれません。

今回の研究は、今後の大腸がん治療を考える上でも大きな意味を持ちますが、大腸がん以外のがんの研究にも役立つものと期待されます。

いまのところ、薬剤耐性を持つがんを化学療法で治療するのは非常に困難ですが、このような研究成果の臨床への応用を待ちたいものです。