がんとマイクロRNAの深い関係

近年発見された「マイクロRNA」という拡散分子。あまり聞き慣れない言葉ですが、形態形成や細胞増殖、がん化など、重要な生物学的機能に深く関わっていることが明らかになってきました。

そこで、マイクロRNAとはいったい何なのか、がん発生への関与や治療・診断への応用とあわせて、わかりやすくご紹介しましょう。

マイクロRNAって?

ヒトの身体のあらゆる生命現象は、たんぱく質が担っています。生命の要であるたんぱく質を遺伝子から合成するときに、遺伝子情報を転写し、新たにたんぱく質をつくる(遺伝子情報を翻訳する)、大事な仲介役を果たすのがRNAです。

いまだ未知の部分が多い遺伝子分野ですが、研究が進められるなかで、たんぱく質をコードしていない(たんぱく質へ翻訳がされない)RNA、「non-coding RNA」の存在が明らかになりました。

当初はあまり関心をもたれなかったnon-coding RNAでしたが、あまりに数が多いために、たんぱく質をつくる以外の何か特別な機能があるのではないかと考えられはじめ、研究がスタートしました。

その結果、核内にある小さなnon-coding RNAのひとつである「マイクロRNA」が、他の遺伝子の発現を調節する機能をもつことがわかりました。このマイクロRNAは広く動植物の細胞の中に存在し、ヒトだけでも2000個ほど存在するのではないかとされており、遺伝子全体の1/3以上を制御していると予測されています。

マイクロRNAの機能は、細胞増殖・分化やアポトーシス(細胞の自然死)における遺伝子制御など多岐にわたります。それまで、疾患の主役はたんぱく質だと考えられていましたが、たんぱく質の発現を制御するマイクロRNAこそが疾患の真の支配者ではないか、という新しい概念がここに生まれたのです。

マイクロRNAとがんの発生

マイクロRNAは標的遺伝子をもっています。マイクロRNAがターゲットとなる遺伝子と結合すると、その遺伝子は発現が抑制されてしまいます。

マイクロRNAは、がんの発現発生に関して大きく2種類に分けられます。がん遺伝子に機能して、がん抑制遺伝子のような働きをもつマイクロRNAと、逆にがん抑制遺伝子に機能して、がん遺伝子のように作用するマイクロRNAです。

そのうち、後者を「oncomiR」といい、未分化な細胞における発現が高いことが多く観察されています。未分化な細胞とは器官に分化する前の細胞であり、分化した細胞と比べると細胞分裂のスピードが速いという特徴をもっています。未分化な細胞ががん化した場合、病変のスピードも速くなり、悪性度の高いがんになります。

がんの治療と診断への応用

マイクロRNAの解明が進められる中で、マイクロRNAをがんの治療や診断に応用しようとする動きも世界中で活発になっています。それぞれのマイクロRNAが、どんな遺伝子をターゲットとしているかを知ることで、新たな治療法を生み出すことが期待されています。

最新の研究発表では、鳥取大学の研究グループが、悪性度の高い未分化がん細胞に「miR-520d」というヒトのマイクロRNAを導入したところ、正常な細胞に変換できたという成果を発表しています。まだマウス実験の段階ですが、がんを死滅させる現在の治療法とは異なり、細胞を元に戻せる可能性が見出されたということで、まったく新しいアプローチでの治療が期待されるところです。

また、最近では、分泌型マイクロRNAの存在も大きな注目を集めています。

マイクロRNAは細胞の外に出されたとき、エクソソームという小包顆粒に包まれて、血液や唾液などを循環することが明らかになっています。エクソソームの中には100~200種類のマイクロRNAが存在しており、がんのステージが上がると、循環するエクソソームの量が増加することが報告されています。がん患者の血液中ではRNA成分が増加していることは既に知られており、この増加は、エクソソームの量の増加と関連性があるのではないかということで、血液や唾液のマイクロRNAをがん診断に応用できる可能性が示唆されています。

まとめ

これらの結果をうけ、2014年1月、「健康診断で、血液や唾液からがんを早期発見する」という新技術の開発に向けて、経済産業省が研究機関や医療機器メーカーを5年がかりで支援することを決定しました。マイクロRNAのさらなる解明と、がんの診断や治療への応用がますます期待されるところです。