プラズマ照射溶液を使った新たながん治療法

最近耳にすることが多い「プラズマ」。そのプラズマを用いた画期的ながん治療法が開発されようとしています。特に、抗がん剤の効かないがんや、散らばったがんの治療への期待が持たれています。今回はその新たな治療法をご紹介します。

脳腫瘍や再発した卵巣がんなどに用いる抗がん剤療法は、治療効果が十分ではなく、現在は有効な治療法はありません。そのような中、2013年に名古屋大学の研究グループが、画期的治療法となり得る、ある効果を発見しました。

非平衡大気圧プラズマ源より発生させたプラズマを照射した溶液が、培養細胞や動物モデルにおいて、がんを抑える効果があることを示すことができたのです。

プラズマって何?

プラズマは、個体、液体、気体につづく、物質の第4の状態のことをいいます。気体を構成する分子が電離し、陽イオン(原子核)と陰イオン(電子)に分かれて自由に運動している、「電離した気体」の状態です。身近なプラズマに、蛍光灯、プラズマテレビ、ネオンサイン、オーロラなどがあります。この技術は、材料加工、医療、エネルギーなど広範な分野で応用され、最も発展的な分野の一つです。

プラズマの医療への応用

近年、世界中の研究グループにより、非平衡大気圧プラズマの医療分野への応用のための研究が盛んに行われております。その結果、腫瘍あるいはがん細胞に直接プラズマを照射したら場合、がん細胞が死滅することはわかっていました。つまり、直接照射できるようながんであれば、プラズマは有効なのです。

しかし、無数に散らばったがんや、プラズマを直接照射できない場所にできたがん、あるいは目で見えない小さなばらまいたようながんの場合には、直接プラズマ照射治療ができません。プラズマのがんに対する効果が有効なことはわかっていても、実際の治療には使いづらかったのです。

しかし、2013年、名古屋大学の研究グループは、プラズマ自体のみならず、プラズマを照射した細胞培養液にも抗腫瘍効果があることを発見しました。その培養液が正常な細胞に影響を与えることなく、がん細胞だけを選択的に殺傷可能であることをつきとめたのです。

プラズマ照射溶液とがん細胞

エネルギーを帯びた原子核と電子とが自由に飛び回っているプラズマを、通常の培養液に照射し、この培養液をがん細胞に投与しました。その結果、プラズマを照射した培養液が、脳腫瘍や卵巣がんの細胞を死滅させることがわかりました。

投与4時間後から、がん細胞が死に始め、24時間後にほぼ全滅しました。比較のため、正常細胞にも同様のプラズマ照射培養液を投与しましたが、正常細胞はほとんど影響を受けず、細胞数も減りませんでした。正常細胞は殺さず、がん細胞だけを選択的に死滅させるという驚くべき結果だったのです。

さらに、プラズマ照射培養液を投与したがん細胞を詳しくしらべてみると、 多くのがん細胞に恒常的に活性化されている、細胞の増殖や生存に関わるシグナル伝達分子「AKT」が抑制されていました。つまり、がん細胞が生きるために必要な「AKT」をプラズマ照射溶液が抑えたために、がん細胞はそれ以上生存できなくなります。そして、それらのがん細胞はプログラムされた細胞死(アポトーシス)へと導かれ、死滅していくという仕組みになっていることがわかったのです。

実験細胞だけなく、生体(動物モデル)でもプラズマ照射溶液の効果あり
さらに、動物モデルとして、ネズミの皮下に人工的に抗がん剤耐性がん細胞を植え込み、プラズマ照射溶液を治療として使ってみました。その結果、培養細胞実験と同様に、腫瘍形成が抑制されました。これは、実験室の試験管の中だけではなく、生体(動物モデル)においても、プラズマ照射溶液は有効であることが実証されたということです。このことから、プラズマ照射液は、生体への直接プラズマ照射の難しい、脳腫瘍や卵巣がん、播種(がん細胞の種をあちこちにまき散らす治療困難な進行がん)への治療法として期待されています。

さいごに

プラズマがどのようにして、がん細胞をプログラムされた細胞死(アポトーシス)に導くのかは、詳しくはわかってはいません。しかしながら、プラズマ照射液は、今まで、あきらめていた、抗がん剤の効かないがん、がんが飛び散ってしまって治療の難しいがんなどへの画期的な治療法として、大きな可能性を感じさせます。これからの研究結果に期待しましょう。