高齢者のがん医療の現状

がん治療は体への負担が大きいため、高齢者に対する治療については以前から議論されています。今回は、2017年8月に公表された国立がん研究センターの全国集計結果をもとに、高齢者のがん治療の現状をご紹介します。

がん治療における「高齢者」とは?

一般的に、「高齢者」という言葉は65歳以上の人のことを指す場合が多いようです。健康保険では65歳以上75歳未満を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と区分しています。

がんの患者さんは、約70%が65歳以上です。また、75歳ぐらいまでは十分に標準的治療に耐えられるとされています。そのため、がん治療においては75歳以上を高齢者とする考え方があります。

国立がんセンターが高齢者のがん治療方法を特別集計

国立がん研究センターは、2017年8月に全国のがん診療連携拠点病院などから収集したデータに基づいた「がん診療連携拠点病院等院内がん登録 2015年全国集計 報告書」を公表しました。

この報告では、高齢者のがん治療の方法について特別集計を実施。2012~2015年の院内がん情報を用いて、がん(甲状腺、食道、肺、乳房、胃、すい臓、肝臓、大腸、子宮頸部、子宮内膜、前立腺、膀胱の12部位)と診断されたときの年齢が40歳以上の患者さんを対象に、病期の分布と病期別の治療方法が調べられています。

がん患者さんの高齢化

今回の特別集計の結果から、がん患者さんの高齢化が指摘されています。

2009年には67.2歳だった患者さんの平均年齢は、2015年は68.5歳となりました。また、75歳以上の患者さんの割合も、2009年の33.0%に対して2015年は36.5%と増加傾向にあります。

さらに、年齢が高いほど病期が進んでいることが病期分布からわかりました。

年齢階級別にみた治療法の傾向

胃がんと大腸がんについて、年齢区分による治療法の傾向を病期ごとにみてみましょう。

  • 胃がん
    患者さん全体のうち、32.6%が75~84歳、8.4%が85歳以上です。
    I期:主な治療法は、手術と内視鏡です。40~64歳では「手術のみ」が46.3%、「内視鏡のみ」が45.4%と、両者の割合はほぼ同じです。しかし、65~74歳では「手術のみ」が31.6%、「内視鏡のみ」が58.6%と「内視鏡のみ」の割合が増加します。この傾向は高齢になるほど顕著になり、75~84歳では「手術のみ」が25.7%、「内視鏡のみ」が63.5%となります。85歳以上では「手術のみ」が20.5%、「内視鏡のみ」が56.7%と、「内視鏡のみ」の割合が減少しますが、84歳以下では1.9~5.9%だった「治療なし」が19.7%と大幅に増加しています。
    II期:主な治療法は、手術と薬物投与です。「手術/内視鏡+薬物」の割合は、40~64歳が62.7%、65~74歳が52.8%、75~84歳が25.2%と高齢になるほど減少します。反対に、「手術のみ」は40~64歳が33.1%、65~74歳が40.7%、75~84歳が61.7%と高齢になるほど増加します。85歳以上になると、「手術のみ」は56.7%に微減、「手術/内視鏡+薬物」は2.5%に激減、「治療なし」は29.5%と大幅に増加しています。
    III期:主な治療法は、手術と薬物投与です。「手術/内視鏡+薬物」の割合は、40~64歳が79.0%、65~74歳が69.8%、75~84歳が42.6%と高齢になるほど減少します。反対に、「手術のみ」は40~64歳が14.0%、65~74歳が20.6%、75~84歳が44.8%と高齢になるほど増加します。85歳以上になると、「手術のみ」は63.9%に増加、「手術/内視鏡+薬物」は8.4%に激減、「治療なし」は16.7%に増加しています。
    IV期:主な治療法は薬物投与、手術と薬物投与の組み合わせです。「薬物療法のみ」の割合は、40~64歳が56.0%、65~74歳が50.1%、75~84歳が37.6%と高齢になるほど減少します。「手術/内視鏡+薬物」は40~64歳が25.5%、65~74歳が25.8%と横ばいですが、75~84歳では17.5%と減少します。また、「手術のみ」は40~64歳が3.6%、65~74歳が6.0%、75~84歳が13.6%と緩やかに増加します。85歳以上になると、「薬物療法のみ」は9.8%、「手術/内視鏡+薬物」は3.6%と大きく減少、「手術のみ」は19.7%に増加します。さらに、「治療なし」は56.0%と大幅に増加します。
  • 大腸がん
    患者さん全体のうち、27.4%が75~84歳、8.1%が85歳以上です。
    I期:主な治療法は、手術と内視鏡です。「手術のみ」は40~64歳が58.4%、65~74歳が57.5%、75~84歳が59.8%、85歳以上が54.1%とすべての年齢区分で大きな差がありません。「内視鏡のみ」も40~64歳が21.2%、65~74歳が23.6%、75~84歳が24.7%、85歳以上が23.5%とほぼ横ばいです。ただし、「治療なし」は84歳以下が1.6~4.6%なのに対し、85歳以上では18.1%と大きく増加します。
    II期:主な治療法は手術で、薬物投与と組み合わせる場合もあります。「手術/内視鏡+薬物」の割合は、40~64歳が32.3%、65~74歳が25.0%、75~84歳が10.1%と高齢になるほど減少し、85歳以上では1.5%しかありません。「手術のみ」は40~64歳が61.5%、65~74歳が69.3%と推移し、75~84歳が82.5%、85歳以上が83.2%と、75歳を境に割合が大きくなります。「治療なし」は40~74歳では1%以下ですが、75~84歳では2.1%、85歳以上では7.6と増加します。
    III期:主な治療法は、手術と薬物投与の組み合わせです。「手術/内視鏡+薬物」の割合は、40~64歳が75.3%、65~74歳が67.9%、75~84歳が40.5%と高齢になるほど減少し、85歳以上では4.9%しかありません。「手術のみ」は40~64歳が15.7%、65~74歳が24.5%、75~84歳が51.5%、85歳以上が80.2%と高齢になるほど割合が大きくなります。「治療なし」は40~74歳では0.4~1.9%ですが、85歳以上になると7.8%に増加します。
    IV期:主な治療法は、手術と薬物投与の組み合わせです。「手術/内視鏡+薬物」の割合は、40~64歳が56.5%、65~74歳が52.4%、75~84歳が33.4%と高齢になるほど減少し、85歳以上では7.2%と激減します。また、「手術のみ」は40~64歳が11.3%、65~74歳が15.9%、75~84歳が29.7%、85歳以上が39.2%と、そして「治療なし」は40~64歳が4.6%、65~74歳が6.7%、75~84歳が14.7%、85歳以上が36.1%と、高齢になるほど増加します。

高齢者のがん治療は個人の状況に合わせた最善の方法を選ぼう

国立がん研究センターの集計結果によると、III期の胃がん・大腸がんを患う85歳以上の患者さんの7~8割超が手術を受けています。ただし、心肺や肝臓、腎臓などの機能が衰えている場合は、合併症を起こす可能性が高いので、手術に耐えられる体力があるかどうかの見極めが大切です。

さらに症状が進んだIV期では、抗がん剤治療が用いられることが多くなります。高齢者の場合は治療効果よりものほうが大きくなるため、85歳になると治療をしないケースが多くなります。また、I期の場合は治療をしなくても数年は命に関わることはないため、患者さんによってはリスクを考慮して治療を見送ることがあるようです。

そして、患者さん本人の病気や治療に対する理解力も重要です。そのため、認知症が進んでいる場合には積極的な治療が難しくなります。加えて、家族のサポートの有無も考慮する必要があるでしょう。

このように、高齢者のがん治療は患者さん一人ひとりの状況に合わせて最善の方法を選ばなければならないのです。

 

参考: