がん治療に期待されるゲノム医療

がん患者さんの遺伝情報を調べ、それに合わせた最適な治療を施す「ゲノム医療」の実現への期待が高まっています。 そこで今回は、ゲノム医療の詳細や患者さんのメリット、2017年6月に厚生労働省が発表した「がんゲノム医療」の実用化に向けた工程表についてご紹介します。

がんゲノム医療とそのメリット

ヒトの遺伝情報(ゲノム)は、約30億もの塩基対で構成されています。そして、ゲノムの塩基配列は一人ひとり異なるため、がんの診断や治療方針の決定に活用することが可能です。

患者さんの遺伝情報から治療に適切な抗がん剤を選択できる例として、分子標的薬のゲフィチニブについて取り上げてみましょう。

がん細胞には、分裂の速度が早いという特徴があります。これは、細胞の増殖に関わる上皮成長因子受容体(EGFR)が変異し、がん細胞の増殖を活性化しているためです。ゲフィチニブは、変異したEGFRの作用を阻害することで抗がん作用を狙った薬剤です。

進行性非小細胞肺のがん患者さんに、遺伝子検査を行わずにゲフィチニブを投与した場合の奏効率は27.5%でしたが、遺伝子検査でEGFR変異陽性だということがわかっている患者さんの場合は奏効率が76.4%に上昇したという研究報告があります。

このように、同じ部位のがんでも原因となる変異は患者さんによって異なります。遺伝情報を調べることで、患者さん一人ひとりに合わせてより効果的な治療法を選択できるように、がんゲノム医療の実用化が推し進められているのです。

ゲノム医療には考慮すべき問題点も

メリットばかりのように感じられるゲノム医療ですが、現状では以下のような問題点もあります。

高額な検査費用

複数の遺伝子異常を同時に測定する網羅的ながん遺伝子検査(遺伝子パネル検査)は、現時点ではほぼすべてが公的保険の対象外となります。そのため、検査説明を受けるだけで数万円、実際の検査を受けた場合は40~100万円台と、費用が非常に高額です(金額は2017年6月現在の情報)。

治療薬のほとんどが公的保険の対象外

網羅的ながん遺伝子検査を受けたとしても、それでがんが治るわけではありません。

検査結果から有効な薬剤の情報が得られても、ほとんどが公的保険の対象外で自由診療扱いとなります。その場合は、相応の費用を負担しなければなりません。民間のがん保険も、保障範囲によってはカバーできない可能性があります。

がんゲノム医療の実用化に向けた工程表

2017年6月に公表された「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会報告書」では、「がんゲノム医療実用化に向けた工程表」が示されています。

それによると、2017年度中に全国7カ所程度の「中核拠点病院」を指定し、2019年度以降には遺伝子パネル検査の実施施設を拡大する方針です。さらに、中核拠点病院の支援で、全国約400カ所の「がん診療連携拠点病院」でも準備が整いしだいゲノム医療を提供可能にするとしています。

また、2018年度前半には「がんゲノム情報管理センター」を開設し、がん患者さんの遺伝情報を集約。2019年度以降には、全ゲノムの解析を目指すとのことです。

なお、検査費用に関しては、2019年度初めを目途に薬事承認された遺伝子パネル検査の保険収載が進められるようです。

最新の情報を集めて十分に検討しよう

がんゲノム医療を取り巻く状況は刻々と変わっている可能性があります。関心がある場合は、担当医に相談するとともに最新の情報を集めるようにしましょう。遺伝子パネル検査で遺伝子異常が見つかったときに開発中の治療薬がある場合には、タイミングが合えば臨床研究や治験に参加できるかもしれません。

がんゲノム医療については、治療効果だけに目を向けるのではなく、リスクや費用負担などのマイナス面もふまえて十分に検討をしてください。

 

参考: