がん根治の鍵を握るがん幹細胞

近年、「がん幹細胞」という特殊な細胞が注目されています。がん幹細胞はがんの増殖や再発、転移に関わることが明らかになっており、さらなる研究が進められているところです。そこで今回は、がん根治の鍵を握ると考えられる、がん幹細胞についてご紹介しましょう。

がん細胞を生み出すのはがん幹細胞

手術でがんの病巣を取り除いても、再発したり転移したりしてなかなか根治できないのが、がん治療の難しいところです。その理由を解き明かすための研究において、未知の細胞が発見されました。それが「がん幹細胞」です。

この発見までは、正常な細胞の遺伝子に傷がついてがん化し、その細胞が分裂を繰り返し増殖することでがんを形成すると考えられていました。実際には、がん化した細胞が永遠に増殖を繰り返していたのではなく、がん幹細胞ががん細胞を生み出していたのです。

がん幹細胞から生まれたがん細胞は急激に増殖しますが、やがてそれは止まります。しかし、がん幹細胞は新たながん細胞を次々と生み出していきます。たとえ手術でがんの病巣をきれいに切除できたとしても、がん幹細胞が残っているとがんは再発します。また、がん幹細胞がほかの部位に移動すると、転移を引き起こすことになります。

なお、がん細胞の種類にもよりますが、がんの組織にはおよそ1%、あるいはそれ以下の割合でがん幹細胞が存在すると考えられています。

がん幹細胞には抗がん剤が効きにくい

手術で切除できなかったがん幹細胞は、抗がん剤治療で根絶できるのではないかと思う人がいるかもしれません。しかし、がん幹細胞には抗がん剤が効きにくいという特徴があるのです。

抗がん剤は、分裂が活発な細胞を攻撃します。がん細胞を死滅させるだけでなく、毛根細胞のような正常細胞にも作用して副作用を引き起こすのは、細胞分裂が活発だという共通点があるからです。

ところが、がん幹細胞はほとんど分裂活動をしていません。そのため、抗がん剤を投与しても十分に作用せず、生き残ってしまうのです。

がん幹細胞の分裂頻度を高めれば抗がん剤が有効に

がん細胞は、分裂するときにDNAの二重らせんが1本ずつに分かれて非常に不安定な状態になります。そこを薬剤で攻撃し、がん細胞にダメージを与えるのが抗がん剤治療のメカニズムです。がん細胞は頻繁に分裂しているので不安定な状態になりやすく、抗がん剤が効果的に作用します。

一方、がん幹細胞はほとんど分裂をしない冬眠状態のため、抗がん剤が効きにくいと説明されています。ということは、がん幹細胞の分裂頻度を高めれば、がん細胞と同様に抗がん剤で死滅させることができると考えられます。

そこで、九州大学生体防御医学研究所の研究では、がん幹細胞の分裂を抑えて冬眠状態にさせるたんぱく質「Fbxw7」に着目。白血病マウスのFbxw7を人工的に欠損させたところ、がん幹細胞の分裂抑制が解除されることが判明しました。さらに、このマウスに抗がん剤を投与すると、がん細胞が死滅しただけでなく再発もみられませんでした。なお、Fbxw7が欠損していない白血病マウスは、抗がん剤の投与を中止すると再発してほとんどが死亡したとのことです。

がん幹細胞根絶への期待

がん幹細胞の性質は不明な点が多く、詳細については今後の研究結果が待たれるところです。しかし、がん治療のターゲットがより明確になったといえるでしょう。マウス実験で効果がみられた白血病だけでなく、ほかの多くのがんでも根治の可能性が高まると期待されています。

 

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