患者さんのQOL(生活の質)を改善する「香り治療」

昨今では、患者さんのQOL(quality of life:生活の質)を保ちながら効果的ながん治療を目指すという考え方が当たり前になっています。こうした医療環境の変化のおかげで、多くの人が自分の生き方を諦めずに治療と両立しています。

しかし、実際にはつらい副作用があったり、思うように病状が改善されなかったりして、自分らしい生活を維持できないケースも少なくありません。そのようななか、がん治療と並行して取り組まれるようになったのが緩和医療です。

緩和医療は患者さんのQOLの維持・改善に大きな効果がありますが、薬剤に頼った方法には抵抗を感じる人もいらっしゃるでしょう。そこで今回は、緩和医療のなかでも「香り治療」に注目してみます。

治療効果の向上が期待できる緩和医療

WHO(世界保健機構)では、がんの緩和医療を「患者と家族が抱えている苦痛を早期に診断し、適正な治療をすることでQOLを向上させる医療」と定義しています。

また、早期から緩和医療を実施することで、がん治療の効果が高まるという研究結果も報告されています。

例えば、外科的手術のあとに痛みが残ることがあります。この痛みがあまりに長く続くと、治療は成功しているにもかかわらず不安に襲われたり、眠れなくなったり、食欲が湧かなかったりとさまざまな弊害が生じ、やがて体力が落ちて気持ちも滅入ってしまうでしょう。そうなると回復が遅れるだけでなく、抗がん剤や放射線治療の副作用が強くなり、再発予防の治療に影響がおよぶ可能性もあります。

このような治療に伴う症状を緩和医療で和らげると、がん治療の効果向上が期待できるというわけです。

香りでQOL向上を目指す「香り治療」

一般的な緩和医療ではモルヒネなどを用いた薬剤療法が中心となるため、抵抗を感じる患者さんが少なくありません。そこで、薬剤に頼らない緩和医療の研究が進められています。そのひとつが、香りを利用したものです。

植物から抽出した精油の香りは、古くからリフレッシュやリラクゼーションの効果があるといわれてきました。また、美容やエステの分野でもアロマテラピーに活用されています。もともとは健康増進を目的にしていたアロマテラピーを医療現場に導入し、患者さんのQOLの向上を目指したのが「香り治療」です。

なお、香り治療の有効性としては、以下のような研究報告があります。

アロマディフューザーでイチゴ、ラベンダー、ヒノキ、カサブランカ、レモングラス、桜、バラのアロマウォーターを使ったときの体調や気分、痛み、吐き気、食欲などの変化をチェックしたところ、カサブランカやヒノキは総合的な改善度が大きく、レモングラスには食欲などを高める働きが見られました。まだ研究が続けられている段階ですが、気軽に取り入れられるQOL改善の方法として期待は高いようです。

アロマテラピーの精油の使い方

アロマテラピーに使う精油には、アルコール類、エステル類、フェノール類など100種類以上の有機化合物が含まれています。呼吸によって精油の芳香分子が体内に入ると、肺胞を通じて血液中にとけ込み、さまざまな作用をもたらします。精油の種類によって作用は異なり、例えばラベンダーには鎮痛作用が、ローズマリーには抗菌や抗炎症の作用が、ジャスミンには精神安定の作用があるといわれています。

精油の使い方は、蒸気とともに揮発させるアロマディフューザーや浴槽に数滴垂らして入浴するアロマバス、マッサージオイルを併用して体に塗り込むアロママッサージなどが一般的です。もっとお手軽に、ティッシュペーパーなどに精油を含ませておく方法でも問題ありません。

医師と相談のうえで適切に取り入れよう

アロマテラピーは、患者さん自身やご家族が容易に取り入れることができます。ただし、精油には刺激の強いものやホルモンのような作用を持つものがあるため、がんの種類や症状によっては香り治療に不向きな場合があります。精油の成分によっては、病状に悪影響が及ぶ可能性もあるので、事前に医師と相談するようにしてください。精油それぞれの特徴をよく理解しておくことも大切です。

また、がんの治療中には刺激に対して過敏な時期があります。万が一、体調に異変が生じた場合は、ただちに中止して、医療機関に連絡しましょう。

 

参考: