がん悪液質による体重減少に関する栄養管理

病巣の部位や進行状態にもよりますが、3~8割のがん患者さんが体重減少を経験するといわれています。そこで今回は、患者さんのQOLだけでなく、治療効果や予後にも大きく影響する低栄養状態「悪液質」についてみてみましょう。

悪液質の定義

「悪液質」は栄養不良によって体が衰弱した状態で、がんに限らずさまざまな慢性消耗性疾患における栄養不良の終末像を指しています。しかし、病態が複雑なこともあり、はっきりとした定義がありませんでした。

そこで、2011年のEPCRC(緩和ケア研究のための国際協力プロジェクト)ガイドラインが掲げる、「がん悪液質とは、従来の栄養サポートで改善することは困難で、進行性の機能障害をもたらし、(脂肪組織の減少の有無に関わらず)著しい筋組織の減少を特徴とする複合的な代謝障害症候群である。病態生理学的には、経口摂取の減少と代謝異常による負の蛋白、エネルギーバランスを特徴とする」を標準的な定義と考える場合が多いようです。

悪液質が起きるメカニズム

がん悪液質は、がん細胞が患者さんの代謝を狂わせて栄養を奪い取り、自身が増殖する際に必要なエネルギーにしているために引き起こされると考えられていますが、詳細なメカニズムについては明らかになっていません。

しかし、近年の研究によって、蛋白質分解誘導因子や炎症性サイトカインの関与がわかってきています。特に、がん細胞から放出される炎症性サイトカインは、患者さんの体全体に炎症を引き起こして全身の代謝機能の衰弱を招くとして重要視されています。

EPCRCガイドラインが提唱する悪液質の段階

EPCRCガイドラインでは、進行状態によって悪液質を3段階のステージに区分することを提唱しています。以下で、それぞれの区分をご紹介しましょう。

  • 前悪液質
    体重減少が5%以下で、食欲不振と代謝変化をともないます。
  • 悪液質
    下記の(1)~(3)のいずれかに当てはまり、摂食量の減少や全身の炎症反応をともなう。
    (1)5%以上の体重減少がある (2)BMIが20未満で2%を超える体重減少がある (3)2%を超える体重減少がありサルコペニア(筋肉量の減少)の状態である。
  • 不可逆的悪液質(回復不能悪液質)
    異化亢進状態で、がん治療に抵抗性がみられます。PS(全身状態の指標)の低下があり、生命予後は3カ月未満とされています。

がん悪液質時の栄養管理

がん悪液質に対する栄養管理には、以下のような方法があります。

  • 栄養カウンセリング
    自己流の偏った食事で栄養状態を悪化させている患者さんが少なくありません。そこで、食事の内容や摂取方法、栄養補助食品の利用などについて患者さんを指導し、適切な栄養管理の重要性を認識してもらいます。
  • 運動療法
    運動量が低下すると、骨格筋萎縮を生じやすくなります。筋肉量が減少すると倦怠感を引き起こし、さらなる運動量の低下につながるため、筋肉の維持は非常に重要です。全身の状態に応じて、ウォーキングのような軽い運動をすることが推奨されています。
  • BCAA(分岐鎖アミノ酸)
    筋肉の保持、増強に欠かせないアミノ酸であるBCAAは、たんぱく質の崩壊を抑制するとともにたんぱく合成能を促進するとされています。また、食欲不振を改善する効果も指摘されています。
  • EPA(エイコサペンタエン酸)
    EPAには、抗炎症作用、がん細胞によるたんぱく質分解誘導因子の産生を抑える作用、骨格筋の分解を阻止させる効果などがあるとされています。
  • コルチコステロイド
    悪液質の患者さんの食欲不振に用いられ、体重の維持に好結果が得られています。しかし、長期間使用すると、高確率で副作用が発現するという問題があります。
  • NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)
    集学的治療(さまざまな治療法を組み合わせた治療)のひとつとして使用すると、悪液質の進展予防の可能性があるとされています。しかし、悪液質が進展した状態で投与した場合には、有害事象を引き起こす可能性が懸念されます。
  • 抗サイトカイン療法
    拮抗薬を用いて、がん細胞による炎症性サイトカインの放出を抑制します。しかし、余命を延ばす効果がないとの研究結果もあります。

早い段階から栄養不良への対策を相談しておこう

悪液質が現れてからではなく、がんの発見、もしくは治療開始時からの栄養療法が重要だとする考えがあります。食欲不振や体重減少への対策について、早い段階から担当医と相談しておくといいでしょう。

 

参考: