抗がん剤が効かなくなる?がんの薬剤耐性について

がん治療で抗がん剤の投与が進むと、最初は大きな効果が現れてがん細胞が縮小するものの、やがて抗がん剤が効かなくなるケースがあります。これをがんの薬剤耐性といい、十分な治療効果が得られない一方で正常な細胞には負担がかかります。つまり、副作用だけが残ってしまうのです。

そこで今回は、がんの薬剤耐性についてご紹介します。

薬剤耐性のメカニズム

感染症などを引き起こす細菌が抗生物質に対して抵抗力を獲得し、同じ抗生物質では細菌を抑える効果がなくなることがあるのはよく知られています。それと同様に、がん細胞も抗がん剤に対する抵抗力をつけることがあるのです。

京都大学や東京大学の共同チームの研究によると、がん細胞の薬剤耐性には細胞膜の内外に物質を輸送するトランスポーターというタンパク質が関わっていることがわかってきました。

そのなかのひとつに、ABCB1というトランスポーターがあります。このABCB1は、さまざまな化学構造の化合物を細胞の膜外へと排出する働きを担い、体内に侵入した異物が細胞膜内に取り込まれるのを防ぎます。それががん細胞においては、ABCB1の働きによって抗がん剤が細胞膜外へ排出されてしまうのです。

抗がん剤投与を始めて間もない時期は、抗がん剤が効果的に作用して多くのがん細胞が死滅します。しかし、生き残ったがん細胞は耐性を獲得し、ABCB1を大量に作り出すようになります。そして、ABCB1を大量に作り出すがん細胞が再び増殖し始めると、当初は効果があった抗がん剤が効かなくなるというわけです。

抗がん剤を用いた治療では、がん細胞の薬剤耐性を考慮し、複数の抗癌剤を用いるのが一般的です。まず一次選択薬といわれる抗がん剤を投与し、その後がん細胞が一次選択薬への耐性を持ち始めたら二次治療薬を投与します。ところが、二次治療薬に対してもがん細胞が耐性を獲得する場合があります。そして、投与する抗がん剤を変えていくうちに、やがてどの抗がん剤も効かなくなってしまうケースが珍しくありません。

さらには、特定の抗がん剤への耐性を獲得したがん細胞が、未使用の抗がん剤に対しても耐性を獲得する、多剤耐性を身につけるケースもあります。そうなると、抗がん剤治療を続けるのは難しくなるでしょう。

今後の可能性

多くの研究機関で、がんの薬剤耐性のメカニズムや、耐性の獲得を阻止する方法に関する研究が進められています。その一例をご紹介しましょう。

ヒトの持つABCB1に構造と機能がよく似た、CmABCB1を持つ真核生物が発見されました。このCmABCB1を研究して異物排出機構を解明することで、ABCB1のコントロールに応用できるのではないかと考えられています。将来的には、がん細胞が薬剤耐性を獲得するのを阻害したり、耐性を解除したりすることが可能になるかもしれません。

また、薬剤耐性に反応しない薬剤や投与方法の開発など、さまざまな可能性が研究されています。まだ実験段階ですが、実用化されれば抗がん剤の有用性や使い勝手の向上が見込まれます。

現状における抗がん剤との付き合い方を考える

薬剤耐性のことを考慮すると、抗がん剤治療は控えたほうがいいようにも感じますが、決してそういうわけではありません。

例えば、タキソールという肺がん治療に用いられる抗がん剤は、いったん使用を中止してから半年ほど経過すると、多剤耐性を獲得したがん細胞に対しても治療効果が現れることがあるといわれています。また、すべての抗がん剤がすぐに効かなくなるわけではなく、なかには長期的に効果を発揮する抗がん剤もあります。

そのため、治療にあたっては抗がん剤の効果と患者さんの体力の状態、がん細胞の増殖状況などを確認しながら、最適な方法を選択します。一般的には、抗がん剤でがん細胞が小さくしてから放射新治療や外科的治療を併用し、一気にがん細胞を取り除きます。

最適な治療法を選ぶには、担当医とのコミュニケーションが大切です。抗がん剤を投与したときの体調変化を詳しく伝えるとともに病状の説明をきちんと受け、自分が望む治療方針を相談しましょう。

 

参考:

がん化学療法の障害となる多剤排出トランスポーターの結晶構造 -体内動態や脳内移行に優れたくすりの開発にも期待-|京都大学