がん細胞にウイルスを感染させて治療するウイルス療法

ウイルスは口や傷口などさまざまな経路から体内に侵入し、定着して増殖します。これを感染といい、体に大きな影響を与えます。インフルエンザや風邪などのウイルス性感染症がその一例です。

ウイルスは健康に悪く、ウイルスへの感染は避けるべきだというイメージが強いかもしれません。しかし、特殊なウイルスを用いたがん治療が研究され、近い将来の実用化が期待される段階まできているのです。

ウイルスでがん細胞を攻撃するウイルス療法

ウイルス療法は、がん細胞にだけ感染する特殊なウイルスを使って、がん細胞を死滅させたり、がん細胞に対するワクチン効果を引き出したりする治療法です。

アメリカでは、2015年に米食品医薬品局(FDA)が、ウイルス療法の治療薬を承認しました。この治療薬は、黒色腫の初回手術を受けたあとに再発した患者の、切除不能と判断された皮膚、皮下、リンパ節などの病変に対する局所治療に適応しています。

日本でも、岡山大学や東京大学でがんのウイルス療法に関する研究が進められ、その結果が発表されています。

岡山大学研究チームの研究事例

岡山大学研究チームは2002年、風邪の原因となるアデノウイルスの遺伝子を操作して、治療用ウイルスを開発しました。このウイルスはがん細胞を破壊するとともに、放射線治療によって傷ついたがん細胞のDNA修復を阻害するので、放射線治療の効果向上も期待されています。

研究チームでは2013~2015年の間に、抗がん剤治療や手術ができない50~90歳代の食道がん患者7人を対象に、ウイルス療法の臨床研究を行いました。内視鏡で腫瘍に直接3回ウイルスを注入し、並行して6週間の放射線治療を行ったところ、4人の腫瘍が消えて1人の腫瘍が小さくなったそうです。

なお、副作用は発熱や食道炎といった、軽い症状にとどまりました。治療に用いられるウイルスは、正常な細胞が感染しても増殖せずに自然に消えるため、正常な細胞がダメージを受けて重篤な副作用を引き起こす可能性は低いといわれています。

東京大学医科学研究所の研究事例

東京大学医科学研究所では、脳腫瘍のウイルス療法が研究されています。用いられるのは、口唇ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)を遺伝子操作して作られたG47Δです。G47Δはがん細胞だけで増殖するという特性を持ち、毒性は弱められています。

また、G47Δに感染したがん細胞に対しては、人間が備え持つ免疫システムが機能しやすくなります。そのため、ウイルスによる抗がん効果に加えて、免疫による抗がん効果も期待できるのです。

ウイルス療法が有効ながんは?

現在、研究されているウイルス療法は、特定のがん細胞を対象としたものです。例えば、G47Δウイルスは白血病のような造血系のがん細胞には感染しにくいことがわかっています。そのため、がんの種類や病状の進行に応じて使い分けられるように多くの種類、または、機能の多様性を持ったウイルスの開発が望まれています。

ウイルス療法は、放射線治療や抗がん剤治療との組み合わせが可能です。複数の治療法を効果的に組み合わせることで、患者さんの身体的な負担を軽減しつつも積極的ながん治療が可能になるのではないかと期待されています。

がん治療の新たな選択肢となり得るウイルス療法の、1日も早い実用化が待たれます。

 

参考:

ウイルス、食道がんを撃退…患者に治療効果|ヨミドクター