世界が注目する新たながん治療「近赤外光線免疫治療法」

現在、がんの標準治療とされているのは、「外科的治療(手術)」「化学治療(抗がん剤治療)」「放射線治療」です。しかし、手術は患者さんへの負担が大きく術後の回復にも時間がかかるほか、がんが大きくなりすぎていたり、複数の箇所に転移が認められたりする場合は適応外となることもあります。また、抗がん剤治療や放射線治療は副作用が問題となるケースがあります。

そのようななか、患者さんへの負担が少なく、ほとんどのがんに対して効果を発揮する新たな治療法が注目されています。米国国立がん研究所(NCI)が開発する「近赤外光線免疫治療法」です。

近赤外光線免疫治療法とは

近赤外光線免疫治療法は、米国立がん研究所(NCI:National Cancer Institute)で主任研究員を務める小林久隆氏によって研究開発されています。近赤外線を照射してがん細胞の死滅を狙うというもので、転移がんを含むほとんどのがんに適応可能で副作用もない、画期的な治療法です。また、治療に必要な設備や薬品が安価なため、医療費の削減に関しても期待されています。

近赤外光線免疫治療法のメカニズム

近赤外光線免疫治療法に用いるのは、近赤外線のなかでももっとも波長が短く(700ナノメートル)、エネルギーが高い光です。これを照射することによって、がん細胞内に化学反応を起こして破壊します。

しかし、近赤外線を照射しただけではがん細胞を破壊することはできません。化学反応を起こすしくみを作る必要があります。そのために利用されるのが、がん細胞だけに結合する抗体とIR700という物質です。

IR700を付けた抗体は静脈注射によって体内に送り込まれ、がん細胞と結合します。そして、IR700は照射された近赤外線のエネルギーを吸収して化学反応を起こし、がんの細胞膜にあるタンパク質を変性させることで、がん細胞を破壊するのです。そのため、正常な細胞は影響を受けることがありません。

患者さんへの負担や安全性

従来のがんの標準治療は、患者さんへの負担が大きいことが課題でした。外科的治療の場合は、患者さんに手術に耐えられる体力があることが条件になります。また、部位によっては手術が困難とされるケースがあります。化学治療や放射線治療は、どの部位のがんに対しても適応できますが、あまりにも副作用がひどいときは、治療の継続が難しくなる場合があります。

近赤外光線免疫治療法には、このような懸念はあるのでしょうか。

使う薬品の安全性

  • 抗体
    米国食品医薬品局(FDA)が認可した、毒性の少ない20数種類の抗体が用いられます。抗体はがん細胞だけに結合するため、正常細胞がダメージを受けることによる副作用は生じないといわれています。
  • IR700
    本来は水に溶けないフタロシアニンという色素です。ケイ素を加えて水溶性に変化させて治療に用いるため、1日で尿とともに体外へ排出されます。

近赤外線の安全性

近赤外線は可視光線と赤外線の中間の波長を持つ人の目には見えない光で、テレビのリモコンや果物の糖度測定などに使用されています。人体の深くまで届きますが、害はありません。また、抗がん剤のように蓄積量の上限がないため、1回ですべてのがん細胞を破壊しきれなかった場合も、繰り返し治療することができます。

2018~2019年の実用化に期待

近赤外光線免疫治療法は、2016年11月の時点で臨床試験の段階ですが、順調に進めば2018~2019年には実用化できるのではないかといわれています。そして、肝臓がん、すい臓がん、食道がん、膀胱がん、大腸がんなど、8~9割のがん治療に利用できるであろうと期待されています。患者さんの身体的負担が少なく、さまざまながんに対応できる治療法として、早期の実用化が待たれます。

 

参考: