がん治療に関する最新の研究

がんの医療技術は、日夜研究開発が進められています。そして、新たながんの治療法として期待される数々の研究成果があります。今回は、そのなかから「ナノマシン」、「マイクロロボット」、さらに、がん細胞の検知に期待される「ナノマシン造影剤」をご紹介します。

血管からがん組織にアプローチする「ナノマシン」

東京大学が開発した「ナノマシン」は、その名称から機械のイメージがあるかもしれませんが、中に薬剤が入った極小のカプセルで、点滴によって血管内に投与します。その大きさは、インフルエンザウイルスよりひと回り小さい程度しかありません。なお、「ナノ」は数の単位で、10億分の1を意味します。

正常な組織とがん組織の違いのひとつに、血管壁の穴のサイズがあります。がん組織はがん細胞の増殖が速いため、栄養や酸素をどんどん取り込めるように正常細胞より穴が大きいのです。

抗がん剤の成分は正常組織の血管壁の穴よりも小さく、がん細胞だけでなく正常な細胞にも到達して作用が及ぶことがあります。それに対して、ナノマシンのサイズは正常組織の血管壁の穴より大きくなっています。そのため、ナノマシンは正常組織の血管を抜け出ることはなく、がん組織だけに到達するのです。そして、がん細胞は取り込んだものを強い酸性の袋の中で消化しようとします。ナノマシンは周りの細胞が酸性になると、構造が変わる性質があり、がん細胞の中に取り込まれて初めて抗がん剤の成分を放出することになります。そのため、ナノマシンはがん細胞だけをねらって死滅させることができるのです。

なお、肝臓は正常な状態でも、がん組織のように血管壁の穴が大きくなっています。しかし、肝細胞はがん細胞よりものを取り込むスピードが遅く、ナノマシンが入ってもほとんどが細胞外に出るそうです。また、肝臓は解毒臓器なので、仮に薬剤が細胞に取り込まれても解毒・代謝され、毒性は出ないといわれています。

ナノマシンは血管を通って体の隅々にまで行き渡るので、発見しにくい小さな再発がんや転移がんにも効力を発揮することが期待されています。

がん組織の中心に到達する「マイクロロボット」

「マイクロロボット」は、免疫細胞のひとつであるマクロファージ(大食細胞)を利用した、直径20µmほどの超小型ロボットです。血管がなく、従来は到達させることが難しかったがん組織の中心部にまで、薬剤を浸透させることができます。

マクロファージには、異物を食べるという特性があります。そこで、マクロファージに抗がん剤を入れたナノ粒子を食べさせます。その際に酸化鉄も一緒に食べさせておき、磁場をかけることでマクロファージの操縦を可能にしているのです。

電流量や電極を変えて磁場を調節することでマクロファージを思う方向へと動かし、がん組織の中心部へと移動させます。すると、マクロファージががん細胞を食べるとともに抗がん剤が流れ出し、がん細胞を攻撃するという仕組みなのです。

マイクロロボットを開発した全南大学は、投与から24時間で大腸がん細胞の約45%が、乳がん細胞の約40%が減少したと述べています。

微小ながんを検出・可視化する「ナノマシン造影剤」

がんや転移がんを早期発見するためには、がんを見落とさない精度の高い検出技術が望まれています。そこで、MRIを用いた診断時に微小ながんを高感度で検出・可視化する方法として、「ナノマシン造影剤」が開発されました。開発に携わったのは、ナノ医療イノベーションセンター、東京工業大学、量子科学技術研究開発機構、東京大学です。

ナノマシン造影剤は、pHの変化に反応して溶解するリン酸カルシウムナノ粒子に、マンガン造影剤を内包しています。これはpH7.4の血流中では安定しますが、pH6.5~6.7がん組織内ではマンガン造影剤を放出する仕組みになっています。従来のMRI造影剤よりもがん組織の検出感度が優れており、1.5mmのごく小さな転移がんの検出に成功したとのことです。

がん組織の内部には、十分な酸素が供給されない低酸素領域が生じます。この低酸素領域には抗がん剤が届きにくく放射線治療の効果も低いため、より悪性度の高いがんへの変化や転移の原因となるとみられています。そして、低酸素領域は、ナノマシン造影剤が反応する低pHの領域と一致しているそうです。ナノマシン造影剤は治療効果予測や治療効果判定にも応用できるため、先手を打った確実な治療の実現に向けて期待が高まっています。

日進月歩で発展する医療技術に期待しよう

がんの医療技術は、日進月歩の勢いで研究開発が進んでおり、治療方法はもちろんのこと、診断方法や医療機器なども刻々と新しいものが生まれています。不治の病と恐れられたがんが治る病気になりつつあるのは、医療技術の進歩の賜物でしょう。将来的に、がんを恐れずに済む時代が来ることを期待したいものです。

 

参考: