探知犬と線虫(寄生虫)による早期がんの発見

「がん探知犬」の存在をご存じでしょうか。優れた嗅覚能力を持つ犬が、驚異的ながんの発見能力を発揮するといいます。また、寄生虫である「線虫」を用いて尿1滴からがんの有無を判断することに成功したという報告もあります。

化学的な検査以外に、生物が持つ優れた能力を活用することで負担なくがんを発見する方法が注目されています。今回は、がんを見つけるための新たな方法の可能性を探ってみます。

犬と線虫の嗅覚を活用

今日では、がんは早期発見することで完治も可能な病気といわれるようになりました。ステージ0~1程度の進行状態で発見することがますます重要になっている反面で、がん検診の受診率は伸びていないのが現状です。その理由としては費用や時間的な面をはじめ、がんの種類に応じてそれぞれ別の検査が必要なこと、検査に痛みを伴う場合があることなどが挙げられます。

現在、健康診断の際に腫瘍マーカーによるがん検査が行われる場合があります。がんによって増加する血液中の物質を調べることで、がんの有無を判断しますが、精度は25%程度と確実な指標とはなっていません。

そこで、身体的な負担が少なく、より精度の高いがん検査として研究が進みつつあるのが、がん探知犬と線虫によるがん検査です。両者の持つ優れた嗅覚を活用してがんを発見します。

がん探知犬

がんには独特なにおい物質があることが以前から知られていました。それをもとに研究が進められているのががん探知犬で、驚異的な検知率が世界で注目されています。

がん検知犬が研究されるきっかけになったのは1989年、医学雑誌への報告でした。ある女性の愛犬が、彼女の足にできた小さなアザに異常に執着し、においを嗅ぐことをやめなかったそうです。その女性は足にできたアザが気になり病院で検査を受けたのですが、医学的には問題ないと診断されます。しかし、愛犬はその後も執拗にアザのにおいを嗅ぎ続けました。不安をつのらせた女性が専門医を受診した結果、そのアザが悪性黒色腫であることがわかったのです。研究が進んだ現在では、訓練した犬によって肺がんや乳がん、子宮がん、大腸がんを発見できることがわかってきました。

さらに、婦人科系のがん患者のサンプル尿を用いた実験では、検知率100%という驚異的な結果を出した犬もいたとの報告もあります。

がんには特有のにおい物質がある

人間の100万倍もの嗅覚を持った犬がかぎ分けているのは、がんが発する特殊な物質のにおいです。揮発性の有機物質(VPCs)に反応しているといわれています。

この有機物質は、がん患者の息のなかにも含まれていると考えられています。また、発生したばかりのがんにも検知犬が反応したことから、かなり早期から発生する物質だとも考えられています。

今後の研究に期待

検知犬によるがん発見の精度は、かなり高いことがわかってきました。しかし、検知犬の弱点も明らかになっています。それは、検知犬1頭が1日にできる検査数が限られていること、犬によって能力に差があること、検知犬の育成に費用と時間がかかることなどです。

今後は検知犬の育成とともに、犬が嗅ぎ分けているにおい物質をより正確に特定し、それを発見できる技術の開発が必要になってくると考えられています。検知犬と技術的な検査の併用ができれば、従来は不可能に近かったかなり早期のがん発見が実現するだろうと期待されています。

線虫によるがん検査

がん検査に用いられるのは、C.エレガンス(カエノラブディティス・エレガンス)と呼ばれる線虫です。この線虫に注目が集まったのは、同じ線虫の仲間である寄生虫アニサキスによって未発見の胃がんが見つかったことがきっかけでした。人の胃に寄生したアニサキスを手術で取り除こうとしたところ、アニサキスが胃のある部分に食いついていました。実はそれが胃がんだったのです。

その後、動物実験でも用いられるC.エレガンスという一般的な線虫を使って研究が進められました。そして、がん患者の尿に含まれるがん細胞の分泌物質のにおいに95.8%の高確率で近づき、健康な人の尿には95%の確率で遠ざかる反応を示すことが明らかになりました。

期待される線虫による検査技術

現在、さまざまな共同研究グループが、線虫によるがん検査技術の実用化に向けて取り組んでいます。この技術が実用化されれば、がん検診は身近で気軽なものになると期待されています。

検査費用も数百円程度と予想されています。さらに、検知犬と違って専門家の訓練が不要なので、医療機関にとって導入へのハードルが低いかもしれません。

実用化が待たれる新たながん検査

がんは早期発見すれば完治の可能性がある病気になってきました。

しかし、従来のがん検査では身体的、経済的な負担は大きなものでした。今後、検知犬や線虫による検査が実用化されれば受診者の負担は軽減され、進んで検診を受ける人が増えるだろうと考えられます。

まだ研究途上で、クリアすべき課題は残されているものの、早期がんを発見するという点では、驚異的な実績報告がある検知犬と線虫。今後の研究と一日も早い実用化が期待されます。

参考: