つらい悪心・嘔吐は過去の話?抗がん剤治療の副作用対策

抗がん剤治療には副作用が付き物といわれており、投与の予定がある方にとっては大きな不安の原因となることでしょう。しかし今では、患者さんごとの状況に応じた治療やケアの評価と調整によって、治療の副作用のひとつであり、もっともつらい症状ともいわれる悪心・嘔吐の症状をコントロールできるようになってきました。今回は抗がん剤治療の副作用対策として行われる、悪心・嘔吐の症状のコントロールについてご紹介します。

悪心・嘔吐の副作用が起きる理由は?

抗がん剤治療による悪心・嘔吐の副作用はなぜ起こるのか確認してみましょう。

抗がん剤は、細胞分裂が活発ながん細胞を死滅させることを目的として用いられます。しかし、抗がん剤の攻撃は正常な細胞にもおよび、特に細胞分裂や増殖が活発な消化管粘膜細胞、骨髄の造血細胞、毛根細胞などは影響を受けやすいといわれています。

なかでも消化管粘膜細胞が抗がん剤の影響を受けると、消化管の細胞からセロトニン、サブスタンスPという物質が多量に分泌されます。これらの物質がそれぞれの受容体に結合すると、嘔吐反射を引き起こす「嘔吐中枢」を刺激して悪心・嘔吐などのつらい症状が起きるのです。

また、過去の抗がん剤治療で経験した悪心・嘔吐の不快感が、大脳皮質を通じて嘔吐中枢を刺激し、嘔吐を引き起こすことも知られています。

悪心・嘔吐の症状のコントロールが可能となった過程

抗がん剤治療の副作用のなかでも、悪心・嘔吐は大きな苦痛をともなう症状のひとつです。それをどのようにしてコントロールできるようになってきたのでしょうか。

  • 吐き気止めの開発
    1995年に、セロトニン受容体拮抗(きっこう)剤のグラニセトロンという吐き気止めが登場。それまでは対処することが難しかった、抗がん剤シスプラスチンが持つ悪心・嘔吐の副作用軽減につながりました。
  • 薬剤の研究と発展
    ステロイド剤(デキサメタゾン)の大量療法とセロトニン受容体拮抗剤を組み合わせると、抗がん剤の副作用による悪心・嘔吐を抑える相乗効果があることが明らかとなりました。また、副作用の少ない抗がん剤も研究・開発されています。
  • 吐き気止めの新薬開発
    2009年には、NK1阻害剤のアプレピタント(イメンド)が開発されました。これは嘔吐中枢にある嘔吐の引き金となる受容体の働きを抑える、新しいタイプの吐き気止めです。
    従来のステロイド剤とセロトニン受容体拮抗剤の2種を組み合わせた場合と、これにアプレピタントを加えた3種を組み合わせた場合を比較すると、後者のほうが吐き気がない患者さんが20%多かったそうです。
  • ガイドラインの公開
    抗癌剤治療の副作用である悪心・嘔吐を適切な診療や処置によって抑え、患者さんが薬物療法を計画どおり進められるように、『制吐薬適正使用ガイドライン』が作成されました。これによって、根拠に裏付けされた指標を医療者間で共有できるようになったのです。

悪心・嘔吐の症状をコントロールするために

抗がん剤の副作用である悪心・嘔吐の症状を我慢していたのは1990年台の話で、現在は適切に、そして積極的に対処できる医療が発展しています。自分の感じるつらい症状を我慢することなく、主治医や看護師などへ積極的に、そして具体的に伝えることが大切です。

まとめ

前述の『制吐薬適正使用ガイドライン』の遵守率は、欧州では3割程度といわれていますが、日本では94%と高い水準となっています。また、医療者と患者さんで症状の認識が異なるため、悪心・嘔吐を適切に評価するには、医療者の客観的評価に加え「患者さんの主観的評価」が必要であると、ガイドラインには明記されています。副作用の症状をコントロールするには、医療者と患者さんが一丸となることが不可欠なのです。

悪心・嘔吐のつらい副作用を受け入れるのではなく積極的にコントロールし、療養生活を少しでも快適に過ごせるようにしましょう。

参考: