がんの個別化医療(オーダーメイド医療)とは?

がんの個別化医療、あるいはオーダーメイド医療という言葉を耳にしたことはありませんか? オーダーメイドというからには、個人に合わせたがん治療というイメージがあります。でも、治療は病状に合わせて施すものでは?……と疑問に感じる人もいることでしょう。そこで今回は、「がんの個別化医療」についてご紹介します。

個別化医療が意味するところ

同じ治療薬を用いても、人によってその効果には違いがあります。副作用も同様で、同じ治療薬でもひどい副作用に悩まされる人もいれば、あまり副作用が出ない人もいます。

これは、患者さんによって遺伝子や蛋白などさまざまな要因が異なるからだと考えられています。

個別化医療とは

個別化医療では遺伝子検査を行い、患者さんが持つ遺伝子的な特徴や変異、がんの特徴などを総合的に勘案します。そして、それぞれの患者さんに合わせて治療効果を最大限に引き出し、副作用という薬剤の有害反応は最小限に抑えることを目指します。

分子標的薬の登場によってスタートした個別化医療

がん治療において個別化医療が脚光を浴びるようになった背景には、分子標的薬と呼ばれる抗がん剤の登場があります。

がん細胞特有の分子や遺伝子の研究が進んだことで、特定の分子をターゲットとした新しいタイプの治療薬、分子標的薬が開発されてきました。

分子標的薬は、がん細胞が特異的に持つ分子をターゲットとするため、攻撃の特異性が高いことが特長です。そのため正常細胞への影響が少なく、副作用の軽減が期待されます。しかし、ターゲットする遺伝子の変異の有無によって効果が左右されることもわかってきました。そこで治療前に遺伝子検査を行い、より効果が期待できると同時に副作用が出にくそうな薬剤が、それぞれの患者さんに合わせて選ばれるようになってきています。

これが現在のがんの個別化医療の姿であり、胃がん、乳がん、非小細胞肺がん、大腸がん、皮膚がんなどにおいて実施されています。

大腸がんの場合

大腸がんを例に見てみましょう。大腸がんの治療では分子標的薬としてベバシズマブ(アバスチン)、セツキシマブ(アービタックス)、パニツムマブ(ベクティビックス)が使われています。国立がん研究センター東病院の吉野孝之先生によれば、セツキシマブあるいはパニツムマブをイリノテカンと併せて投与すると、がん病巣が半分以下に縮小する割合では約30%、がんの成長が止まる割合では約80%に効果が見られるとのことです。ただし、これはKRAS遺伝子に変異がない患者さんの場合であり、変異がある患者さんには効果がないそうです。したがって、投与前にはKRAS遺伝子の状態が調べられています。

がんの個別化医療における遺伝子検査の可能性

治療薬を選択するためだけでなく、よりきめ細やかな治療を実現するために、遺伝子検査に関する研究が進められています。

肺がんの治療に用いられているゲフィチニブ(イレッサ)という分子標的薬を例に見てみましょう。ゲフィチニブは、上皮増殖因子受容体(EGFR)の遺伝子に変異がある場合に治療効果が高いことが知られています。したがって、ゲフィチニブの投与前には遺伝子検査が行われ、がん細胞にEGFR遺伝子の変異が認められるかどうかを確認しています。

薬剤耐性の見極めにも?

しかし、ゲフィチニブの投与を続けるとEGFR遺伝子にさらなる変異が起こり、ゲフィチニブが効かなくなる薬剤耐性が生まれることが知られています。的確な治療のためには、がんのEGFR遺伝子がどのくらい薬剤耐性を持っているのか知る必要があります。そこで、大阪府立成人病センター研究所では、患者さんから採取しやすい血液を用いたがん由来の耐性EGFR遺伝子の検出、定量化の研究が進められています。

100%の個別化医療を目指して

がんに関わるたんぱく質や遺伝子の解明、遺伝子検査や診断薬の開発、治療薬の開発が三位一体となって進んでいる個別化医療。副作用を抑えつつ、より効果的な薬剤の投与が可能となってきましたが、それでもまだすべての患者さんに当てはまるわけではありません。

薬剤の効果には、ターゲットとなる遺伝子だけでなく、体内の薬剤輸送や薬剤の代謝なども関与しています。また、がん細胞の薬剤耐性の仕組みを解明する必要もあります。

さらに、患者さんの栄養状態や骨髄機能の状態、心理状態までもが治療効果に関与するといわれています。

したがって、すべての患者さんに対して効果が最大で、副作用が最も小さくなるように治療するという理想的な個別化医療が実施できるようになるには、関与するさまざまな因子のさらなる解明が必要です。それと同時に、医師のみならず看護師や薬剤師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなどを含めたチーム医療が必要になると考えられています。

日進月歩の研究開発と医療体制の充実により、100%の個別化医療が実現することを期待しましょう。


参考: