分子標的薬:薬剤ごとに違う特徴的な副作用

現在の化学療法において欠かせないものとなっている分子標的薬。がん細胞の持つ特定の分子をターゲットとするため、従来の抗がん剤治療で見られた骨髄抑制や脱毛などの副作用の発現が減少しました。しかし、分子標的薬にも個別の副作用があることがわかってきています。そこで今回は、分子標的薬の副作用についてご紹介します。

分子標的薬の歴史

日夜進められているがん研究によって、1980年代にはがんの増殖や転移に関与すると考えられる分子の存在が明らかになりました。そして、がん細胞の特定の分子をターゲットとした治療薬の開発が行われ、1990年代後半には新しいタイプの抗がん剤、分子標的薬が登場しました。

薬剤のがん細胞への攻撃の特異性が高まるということは、正常な細胞に対する影響が少なくなることを意味します。つまり、分子標的薬は従来の抗がん剤に比べて脱毛や骨髄抑制、口内炎、消化管の粘膜への障害といった副作用の発現が少ないという特徴があるのです。

しかし、副作用がまったくないというわけではなく、分子標的薬の種類ごとに特徴的な副作用が発現するので、その対策も個別に必要となります。

それでは、分子標的薬の副作用やその対策について、セツキシマブを中心に紹介しましょう。

セツキシマブ

大腸がんの治療に用いられるセツキシマブは、副作用として皮膚障害を引き起こすことがよく知られています。虎の門病院の調査では投与を受けた人の94%に皮膚障害が見られ、「皮膚障害はセツキシマブが効いている証」といわれるほどです。もっともよく見られる皮膚障害はにきびのようなものができるざ瘡様皮疹で、別の報告ではその出現率は82.7%との数字があがっています。

皮膚障害が起きる理由

がんの細胞膜上の分子、上皮成長因子受容体と呼ばれるものに結合し、増殖などを抑制するのがセツキシマブの作用機序です。上皮成長因子受容体はがん細胞だけでなく正常な皮膚にも存在するため、セツキシマブの投与によって皮膚細胞の増殖も妨害され、炎症などの皮膚症状が引き起こされると説明されています。

セツキシマブの効果と皮膚障害の出現度合いは相関すると考えられており、皮膚障害と上手につきあいながら治療を受けることが大切です。

皮膚障害対策のポイント

皮膚傷害の悪化によって治療が中止したり減薬になったりすることがないように、セツキシマブの投与開始と同時に皮膚障害への対策も始める必要があります。

  • 保湿ケアで皮膚の乾燥を防ぐ

セツキシマブの投与が始まったら、1日3回(朝、昼、夜)、体全体に(特に手足は重点的に)保湿剤を塗りましょう。入浴後の保湿ケアは、より効果的です。

  • 症状が出たら、すぐにステロイド剤で治療する

にきびのようなものが出てきたら、すみやかにステロイド剤を塗ります。顔には弱いステロイド剤を、頭皮にはローションタイプを使うといいでしょう。かゆみをともなう場合は、抗ヒスタミン剤などの指示があれば併用します。

なお、保湿剤とステロイド剤を同時に塗る際は、保湿剤のあとにステロイド剤を塗りましょう。

  • 市販のにきび薬は使用しない

皮膚障害とにきびはまったくの別物なので、市販のにきび薬は使用しないでください。

  • 日焼けを避ける

外出の際には肌の露出を避け、日焼け止めを使用しましょう。セツキシマブの投与が中止されたあとも、1~2か月間は紫外線に気をつけたほうがいいようです。

  • 炎症を抑える抗生物質を服用する

医療機関によっては、炎症を抑える抗生物質が処方されることがあります。皮膚障害の重症化を予防するのが目的ですので、きちんと服用しましょう。

ベバシズマブ

肺がんの治療にベバシズマブを用いる場合、高血圧や喀血、鼻出血などの副作用があることが知られています。特に多いのが高血圧で、投与を受けた人の約50%に症状が見られるといわれています。

血管に関係する副作用が起きる理由

ベバシズマブは新しく血管ができるときに関与する血管内皮細胞増殖因子に結合し、血管の新生を阻害することでがんの増殖を抑制します。そのために出血しやすかったり、傷の治りが悪くなったりといった副作用が見られるのです。

高血圧は自宅で血圧をチェック

副作用としてもっともよく見られる高血圧は、降圧剤によって容易にコントロールできます。高血圧の兆候を見落とさないように、自宅で血圧を測定するようにしましょう。

喀血経験者は要注意

ベバシズマブによる副作用として気をつけたいのは喀血です。肺からの出血によって窒息死する可能性もあることから、過去に喀血の経験がある場合にはベバシズマブを投与することはできません。

まとめ

その他、肺がん治療に用いられるゲフィチニブには間質性肺炎や急性肺障害、乳がん治療に用いられるトラスツズマブには心障害、胃がんや肝細胞がんの治療に用いられるソラフェニブには高血圧や手足症候群などの副作用があることが知られています。

分子標的薬を用いた治療を受ける際には、副作用の内容や発現のタイミング、副作用の予防と軽減のための対策法についてよく理解しておくことが大切です。


参考: