がん患者のリハビリテーション「がん理学療法」

がんの治療中、治療後には、体を動かすことがつらい状態になることがあります。動かすと痛い、骨折が心配で動きたくない、あるいは、そもそも息をするのもつらいなどさまざまな理由で、日常の動きが制限されることがあります。「リハビリテーション」と聞くと、機能回復のための「訓練」というイメージがあり、自分には関係ないと思われるかもしれませんが、がん患者にとっても理学療法によるリハビリテーションは大きな役割があります。QOL(生活の質)の向上と維持のためにもがん理学療法によるリハビリテーションを受けることをおすすめします。 

理学療法とは?

公益社団法人日本理学療法士協会によると、理学療法とは「けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法」と、定義されています。

そして、運動機能の回復を図って、日常生活の活動を改善し、QOLを向上させることが最終的に目指すものであると述べられています。

がん患者にとって、できることが増える理学療法

特に、がん理学療法では機能回復だけが目的ではなく、体に支障を持ちながらもできることを増やしていくこと、日常生活での行動の自由度を増やしていくことも目的としています。したがって、「がんが治っていないから無理」ということはありませんし、「骨折の心配があるから、訓練なんて関係ない」ということもありません。行動の制限は、QOLの低下につながりやすく、気持ちのうえでも負担になりやすいものです。動けないことをあきらめてしまわず、理学療法に取り組んでみませんか?

以下に、具体的な例をいくつかご紹介しましょう。

術後の肩の動きが心配なとき

乳がんの手術後、とくに腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい)を行った場合には、手術した側の肩の動きが不自由になりやすく、日常生活を送るうえで支障を生じることがあります。指導書にしたがって、自分一人で動かす練習をするよりも、肩関節可動域訓練や上肢筋力増強訓練と呼ばれる包括的なリハビリテーションを受けるほうが、より改善が見られるといわれています。また、包括的リハビリテーションを受けると、リンパ浮腫の発症リスクも減少することが報告されています。訓練は、手術後、5~7日から開始することがすすめられているようです。

食事があまりとれないとき

頭頸部がんへの放射線治療を受けると、口腔粘膜障害や嚥下(えんげ)障害を起こし、食欲が低下し、倦怠感が生じることがあります。適度な有酸素運動を行うと、食欲が出たり、倦怠感の軽減が見られたりします。理学療法士は、体が疲れてしまうのではなく、体が軽くなるような適切な運動を指導してくれます。

骨折が心配な状態のとき

骨転移によって骨折が心配な場合には、骨に負担のかからない体の動かし方を指導してくれます。例えば、腰椎にかかる負担が心配される際にも、腰椎に負荷がかからないように立ち上がる方法を指導してくれますので、腰椎が心配で座れなくとも、歩くことが可能になります。

呼吸することがつらいようなとき

胸水の貯留が多い場合には、息を大きく吸うことができなくなります。呼吸が浅いと、肺での換気量が少なくなり、体を動かすことがつらくなります。理学療法士に呼吸方法を指導してもらうと、体を動かすことが楽になり、歩ける距離ものびるでしょう。

尿失禁がつづくとき

前立腺全摘出術を受けた後、尿失禁が出現することがあります。骨盤底筋体操をおこなうと、尿失禁の出現期間が短縮し、尿失禁に悩む患者数も減少することが報告されています。定期的な理学療法士による指導を受けると、さらに尿失禁軽減の効果が高いことも報告されています。

副作用である下痢や貧血の悩みにも

乳がん術後の放射線療法や化学療法の治療中に有酸素運動を組み合わせた場合に、赤血球数やヘモグロビンの減少が抑えられたという報告や、吐き気、嘔吐、下痢が改善したという報告もあります。また、抗がん剤治療中の運動の実施により、抗がん剤の耐容性の改善や治療完遂率の向上も見られたそうです。

血液腫瘍に対して、造血幹細胞移植を受けた場合にも、有酸素運動や筋力トレーニングを行うことにより、赤血球輸血回数の減少、ヘモグロビン濃度の改善が見られたという報告があります。

効果が期待できる適切な運動メニューを、体の状態にあわせて考えてもらいましょう。

訪問リハビリテーションもあります

療養中の体の不自由さ、体を動かす際のつらさや苦しみを「がんだから、しかたがない」とあきらめてしまわず、リハビリテーションを受けることを考えましょう。現在では、自宅などの療養先に訪問してくれる「訪問リハビリテーション」もあります。介護保険制度にある「訪問リハビリテーション」「デイケア」といったサービスを利用するのもよいでしょう。リハビリテーションでは、介護の支援も受けられ、介護者の負担軽減にもつながります。まずは、担当医や看護師、ケアマネージャーに相談することから始めましょう。


参考: