分子標的治療薬について知ろう!

がんの代表的な治療法のひとつが薬物療法です。広く一般的に用いられる治療法ですが、がん細胞のみならず正常な細胞への影響も強く、重篤な副作用が発症する可能性があることは知られています。もちろん、副作用の発症時期や仕方についても研究が進んでおり、現在ではその対策も十分に考えられています。

一方、がんの研究が進歩したことによって新たな視点で開発された薬もたくさんあります。1990年代の後半からがん治療に導入されている分子標的治療薬もそのひとつです。今回は、分子標的治療薬について見ていきましょう。

がん細胞の特徴に着目した薬

がんは、正常な細胞から発生した異常な細胞が増殖した状態です。正常な細胞は、例えば、けがをしたときにその傷口を治すために増殖しますが、傷がふさがれば増殖を止めます。しかし、がん細胞は体の状況を無視して増え続けます。そして、がん細胞の固まりは周りの組織に影響をおよぼし、組織を破壊したり、組織の機能をうまく果たせない状況を引き起こしたりするのです。

抗がん剤の多くは、増殖が活発な細胞であれば、がん細胞でも正常な細胞でも攻撃します。そこで、増殖が著しい髪の毛や消化器の細胞などは、正常な細胞であっても攻撃対象となり、ダメージを受け、脱毛や吐き気などの副作用が現れます。

そこで、がん細胞だけを選択して攻撃する方法がないか考えられました。その中で着目されたのが、がん細胞に特有な因子(遺伝子やタンパク質)です。これらは、がん細胞が際限なく増殖するために必要な因子であり、これら特有因子を攻撃することでがんの増殖を阻止するように考えられた薬が分子標的治療薬です。

分子標的治療薬では、特有因子を持たない正常な細胞は攻撃の標的とはされないようになります。例えば、乳がんの治療に利用されているトラスツズマブは、従来のような副作用はほとんどないとされています。しかし、分子標的治療薬ならば正常な細胞への作用が全くないと言い切れるわけではありません。従来のように正常な細胞がダメージを受けて発症する副作用は確かに少ないのですが、薬剤性肺炎や皮膚障害など、一般的な抗がん剤とは違った副作用の報告もあります。したがって、担当医から薬の効果や副作用などについてきちんと説明を受け、よく理解して治療を受けることが大切です。

分子標的治療薬の種類と標的分子

がん細胞にもさまざまな種類があり、それぞれ特有の因子にも違いがあります。そのため、分子標的治療薬もそれぞれの因子に適合する薬が開発されています。どのような薬がどんな因子に作用するのか主なものを見てみましょう。

イブリツモマブチウキセタン:CD20というタンパク質を持つがん細胞を攻撃し、増殖を防ぎます。

エベロリムス:転移した腎細胞がんを対象として利用されます。細胞分裂や増殖を促すmTORの働きを阻害して増殖を防ぎます。

エルロチニブ:切除できない再発あるいは進行性の非小細胞肺がんを対象として使用されています。シグナル阻害剤と呼ばれる薬です。細胞の増殖や分化などに関わる信号を伝達するアミノ酸、チロシンキナーゼの働きを阻害して、がん細胞の増殖を抑えます。

乳がんにおける分子標的治療薬

分子標的治療薬が使われる代表的ながんに乳がんがあります。乳がん治療を例に、分子標的治療薬の役割と使い方を見てみましょう。

乳がんの中には、がん細胞の表面にHER2タンパクを持っているものがあります。このHER2タンパクはがん細胞に増殖することを命令する因子です。

HER2陽性(HER2タンパクがある)乳がんの治療に使われている分子標的治療薬が、トラスツズマブやぺルツズマブ、ラパチニブ、T-DM1といった薬です。これらの薬はHER2タンパクにくっついて、その働きを阻止し、がん細胞の増殖を抑えるように作用します。この作用から抗HER2阻害薬とも言われています。

また、HER2タンパクにトラスツズマブがつくとそれが目印となり、免疫細胞の攻撃の標的となりやすくなります。

このように分子標的治療薬は、がん細胞だけが持っている特徴を見つけてそれにくっつくことで、直接的、間接的にがん細胞を攻撃すると言えます。

治療対象となるかならないかの判断が大切

以上のように、分子標的治療薬はがん細胞の特徴的な因子を標的とするため、がん細胞にあわせた薬を使うことが大切です。そのため、乳がんの場合でも、トラスツズマブなどを利用できるかどうかの判断が必要になります。その判断は、手術前なら針生検によって採取したがん組織を用いて、手術後は摘出されたがん細胞を調べて判断されます。

併用によって効果を高める工夫

分子標的治療薬はがん細胞の特有のタンパク質や遺伝子を標的としますが、ひとつの病巣におけるがん細胞のすべてがそのタンパク質をもっているわけではありません。そこで、より確実にすべてのがん細胞を死滅させるために、抗がん剤と併用して投与されることが多いようです。例えば、乳がんでHER2の存在が高く、手術をしても再発のリスクが高いと判断された場合などには、抗がん剤とトラスツズマブを併用します。こうした場合、再発する危険性が半分近くにまで下がったとする報告もあるようです。

副作用

分子標的治療薬は、従来の抗がん剤のような正常細胞への影響によって起こる副作用はほとんどないとされています。しかし、別の副作用、例えば、トラスツズマブなどのHER2阻害薬においては、心不全などの発症が報告されています。また、分子標的治療薬を他の抗がん剤と併用すると、併用した抗がん剤の副作用は抑えられません。

まとめ

分子標的治療薬は、がん細胞特有の因子にくっつくことでがん細胞の増殖を防ぐ薬です。最大の特長は、正常な細胞への影響が少ないと期待される点でしょう。しかし、分子標的治療薬と抗がん剤を併用する治療法が一般的であること、また、分子標的治療薬にも副作用を強く発症するものもあることなどから、治療においては副作用への対応も心構えをしておくことが大切です。

参考: