がん治療中の貧血について

がん治療中、治療後によく見られる症状のひとつに「貧血」があります。貧血というと、あまりたいしたものではなく、たかが知れているというイメージがあるかもしれません。しかし、貧血は体内の酸素不足を意味し、決して軽視できる症状ではありません。今回は、QOL(Quality of Lifeにも大きく関わってくる貧血について見てみましょう。

貧血の目安であるヘモグロビン濃度

血液成分のひとつである赤血球には、ヘモグロビンという物質が含まれています。ヘモグロビンは体内で酸素を運搬する大切な役割を担っています。貧血は、赤血球あるいはヘモグロビン量が正常よりも低下した状態を指します。

血液検査で調べることができるヘモグロビンの濃度(Hb値)は、貧血を検出するひとつの目安となっています。成人の正常なHb値は男性では14~18g/dl、女性では12~16g/dlとされています。

貧血の症状

貧血の症状にはどのようなものがあるのでしょうか? ここでは、ヘモグロビンの減少量に伴う一般的な症状を見てみましょう。

  • ヘモグロビン濃度が正常値の約70%以下になると?

Hb値が9~10g/dlでは、自覚症状がないこともあります。顔色が冴えなくなったり、まぶたの裏や口の中が白っぽくなったりします。

  • ヘモグロビン濃度が正常値の約60%以下になると?

Hb値が8g/dlになると、脈拍数が増えたり、動悸を感じたり、少し運動をしただけで息が切れたりします。体内の酸素が不足してきているため、血液を多く送る必要があるからです。

  • ヘモグロビン濃度が正常値の約40%以下になると?

Hb値が7g/dlになると、体内の酸素の不足により、疲れやすくなったり、集中力が欠けたりして、かなりつらい状態になります。めまい、立ちくらみ、耳鳴り、頭痛、不眠なども見られます。

  • ヘモグロビン濃度が正常値の約30%以下になると?

Hb値が5~6g/dlになると、食欲不振、むかつき、便秘などの症状が見られると言われていますが、国際保健機関による貧血の分類によれば、Hb値が6.5g/dl以下になると、生命を脅かす病状と分類されていますので要注意です。

がん治療中の貧血の原因

それでは、貧血の原因にはどのようなものが考えられるでしょうか? がん治療中、治療後の貧血の原因としては、以下のようなものがよく知られています。

1.がんによるもの

胃がんや大腸がんなどによる消化管からの出血によって起こる貧血は早期でも見られます。それ以外のがんでは、早期に貧血が見られることはあまりないようです。

一般に、がんが進行すると貧血も重くなる傾向があります。また、がんが骨髄に転移すると貧血が起こります。

2.治療の副作用によるもの

血液細胞を産生する骨髄は、細胞分裂が盛んなため、放射線や抗がん剤の影響を受けやすく、それらの治療によって骨髄がダメージを受けると、血球の数が減少し、貧血が起こりやすくなります。

抗がん剤の中では、シスプラチンやカルボプラチンなどのプラチナ系、タキソールやタキソテールなどのタキサン系、ドキソルビシンやエピルビシンなどのアントラサイクリン系の抗がん剤は、貧血を起こしやすい薬剤として知られています。

赤血球の寿命は比較的長いため、治療後すぐには影響が現れませんが、治療開始後1、2週間経つと、貧血が見られるようになります。

3.胃切除によるもの

赤血球をつくるために必要なビタミンB12や、ヘモグロビンの材料となる鉄の体内への吸収には、胃の働きが欠かせません。したがって、がん治療のために胃を切除すると、貧血が見られることがあります。

ただし、貧血は手術後すぐには出現しません。鉄の吸収障害によるものは、術後2~3年経ってから見られるようになります。通常肝臓にビタミンB12が蓄積されているので、ビタミンB12の吸収障害を原因とする貧血は、術後3~4年経ってから現れるようになります。

貧血のときに注意したいこと

貧血になったとき、日常生活の中で気をつけたいことがいくつかあります。

  • 白血球の減少により免疫力が低下しているので、手をよく洗い、うがいをするなど、感染を防ぐよう努めましょう。
  • 鉄を多く含む食品をとるようにするだけでなく、鉄の吸収を助けるビタミンCも一緒にとるようにしましょう。
  • 赤血球をつくるために欠かせないビタミンB12を多く含む食品(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、玉ねぎ、バナナ、にんじん、くるみ、ピーナッツなど)をとるようにしましょう。
  • たんぱく質も多くとるようにしましょう。
  • 鉄などの栄養素の吸収をよくするため、食事はよく噛んで食べましょう。
  • 立ちくらみやめまいを起こしやすいので、起き上がるときや立ち上がるときにはゆっくり動きましょう。

疲れやすくなったら貧血を疑ってみよう

外出してもすぐに気分が悪くなったり、すぐにひと休みしなければならなくなったり、あるいは階段の上り下りをつらく感じたりしませんか? 疲れやすくなったのは、貧血が原因かもしれません。

対処もないがしろにされがちだった貧血も、現在は積極的に治療が行われるようになってきました。東海大学医学部の堀田知光先生も「今や国際的には貧血は放置すべきではないというのが常識です」と語っています。QOLを維持するためにも、貧血になったかなと感じたときには、がまんせずに担当医に相談しましょう。


参考: