がん治療の副作用、味覚障害にせまる

「砂をかむ」という表現は、味わいや面白味が全くないたとえですが、毎日の食事が文字通り砂をかむようなものになることがあります。「味がしない」「苦みだけしか感じられない」「砂か泥を食べているよう」。このような悩みは、がん治療の副作用としてめずらしいものではありません。今回は、抗がん剤で治療中の人の約6割に起こると言われる味覚障害について見ていきましょう。

味覚障害とは?

がん治療による味覚障害とは、がんの治療を受けることによって、食事をしたときに感じる食べ物の味や食感が治療前に比べて変化することを指します。

味覚障害のメカニズム

まず、味覚障害がどのようにして起こるのか見てみましょう。

私たちは、「甘い」「苦い」などの味をどのようなメカニズムで感じているのでしょうか? 

口に入った食べ物の味は、唾液などの水分によって舌や軟口蓋にある小さな器官「味蕾(みらい)」へ運ばれていきます。味蕾は味細胞と呼ばれる細胞が集まって成り立っています。味蕾で感知された味の信号は、神経を介して脳へ送られ、脳で味として認識されます。

したがって、味蕾が損傷したり、唾液の分泌が悪くなったり、あるいは味の信号を伝える神経が損傷したりすると、味覚障害が起きることになります。

味覚障害の傾向

味細胞は新陳代謝が盛んな細胞であり、10~12日で新しい細胞と入れ替わります。このように短いサイクルで新しい細胞と入れ替わるため、味覚は聴覚などに比べると加齢によって衰えにくいとされています。しかし、抗がん剤治療においては、抗がん剤が細胞分裂の盛んな細胞をターゲットとするため、味細胞も障害を受ける可能性が高くなります。

抗がん剤の中でも、5-FU系の抗がん剤は味蕾が障害を受ける可能性が高いと言われています。また、抗がん剤によっては亜鉛の吸収を阻害することがあり、再生に亜鉛が必要な味蕾は回復しにくくなります。

放射線治療では、照射野に唾液腺が含まれると、唾液が出にくくなり、味がわかりにくいという症状が起こることがあります。耳下腺、顎下腺、下舌線という大唾液腺が照射野に含まれることが多い頭頸部がんでは、唾液が出にくくなり、放射線の照射によって味蕾の数も減少することがあります。

症状に合わせて味付けを工夫してみよう

味覚障害は多くの人が経験する副作用ですが、治療が終了すると味覚が戻ってくることが多いとされています。ですから、味覚が戻ってくるまでの間、少しでも美味しく食べられるように味付けを工夫してみましょう。

苦みがつらいときには

苦みを強く感じるときにもだしの風味を生かしたものは食べやすいようです。また、玉子豆腐や茶わん蒸しも食べやすいメニューです。酸味やスパイスを取り入れてみるのもよいでしょう。「白身魚の甘酢あんかけ」や「酢豚」などの酸味をいかした甘酢あんかけの料理は、味覚障害が出ていても比較的食べやすいメニューのひとつです。サラダにも柑橘系の果物の果汁を利用するとよいでしょう。

味がわかりにくいときには

料理の温度を人肌くらいにすると味を感じやすく、食べやすくなると言われています。味付けを濃い目にするほか、果物や酢のもつ酸味の力、薬味やスパイスを取り入れてみましょう。例えば、炒めものに、にんにくや生姜での風味付けや、唐辛子でピリ辛にするのも良いでしょう。七味唐辛子や山椒を一振りするのもよいでしょう。

金属味がするとき

金属味を感じる場合も、だしの風味を生かすとよいでしょう。塩は控えめにしたほうがよいようです。料理によっては、みそを用いてみるのも良いでしょう。

その他

甘みを強く感じて気になる場合には、塩味(塩、しょうゆ、みそなど)を強めにし、みりんなどの甘みのある調味料は控えめにしましょう。レモンなどの酸味や酢、スパイス等も甘みを隠すのに利用できます。汁ものはあまり甘みが気にならないという場合がありますので試してみましょう。

また、ハムやソーセージ、化学調味料など、特定の食品がまずいと感じられる場合には、その食品をしばらく避けるようにしましょう。

うがいで味覚障害の予防

口内が乾燥気味になると、味の成分がうまく運搬されなくなり、味がわかりにくくなります。口の中をうるおすためには、水でのうがいがおすすめです。感染症や口内炎などの予防にもなりますので、頻繁にうがいするよう心がけましょう。また、食前にレモン水やレモン入り炭酸水でうがいをすると、唾液の分泌が促され、味覚低下の予防や回復が期待できるようですので、ぜひ試してみましょう。

栄養補給も治療のうち

抗がん剤の治療を受けている人は、健康なときよりも多くのエネルギーが必要と言われています。良質のたんぱく質などをしっかり食べて栄養補給をすることは、治療のためにも重要です。抗がん剤治療による味覚障害は自然に回復してくることが多いので、それまでの間は味付けや盛り付けを工夫するなどして、少しでも食事を楽むよう心がけましょう。

参考: