2013年 米国サイエンス誌のブレイクスルー第1位 「がん免疫療法の進歩」

がん治療における「免疫療法」ってご存知でしょうか。昨年はこの免疫療法の転換点の年といわれ、米国の有名な科学雑誌の選ぶ、その年一番の革新的科学技術に選ばれました。自分の体の免疫システムをつかったがん治療法として、今や、おおいに注目されています。

科学の権威雑誌、サイエンス誌が選んだナンバー1

そのサイエンス誌は1880年より出版された全世界に100万人以上の読者を誇る雑誌です。世界中で信頼され、権威があるとされる学術雑誌の1つで、科学全般においての最高峰として認識されています。

2013年には、がん免疫療法の臨床試験で、将来とても期待される有望な結果が出たことから、そのサイエンス誌が、この治療法を2013年のBreakthrough of the year (2013年の革新的科学技術ナンバーワン)に選びました。

有望な科学技術として、太陽電池技術、遺伝子編集技術、ワクチン設計技術、iPS細胞からのヒトのミニ臓器の作成 などがその他にあげられました。それらの中から、今回、がん免疫療法がトップを獲得したのには、理由があります。

今までのがん研究者の治療方法に比べ、免疫療法は全く新しい治療法であり、治療方法に劇的な変化を与えうることが評価されたからでした。

がん免疫治療とは

がん免疫療法とは、自分の体内の免疫細胞を活性化して腫瘍細胞を攻撃し、がん細胞をやっつける治療を言います。がんの治療への免疫療法の利用は、将来どんな効果や副作用があるか、未知数なところが大きい分野ではあります。しかし、研究や臨床試験を重ねることで次第にその全貌がわかりつつあり、がん免疫療法の有用性が認められ、あたらしい治療法の1つとして、将来性が見込まれています。従って、大学などの研究機関だけでなく、製薬会社もまたその開発研究に多額の投資をしています。

免疫療法の歴史

①免疫細胞のブレーキ「CTLA-4」の発見

免疫療法の研究が始まったのは、1980年代後半のフランスの科学者により、免疫をつかさどるT細胞に「CTLA-4」という受容体(レセプター)が発見された頃からでした。この「CTLA-4」は、免疫細胞がその機能を抑えるブレーキとして働いていることが発見されたのです。

その10年後、米国の研究者が、ネズミを使った実験で「CTLA-4」の働きを抑えることにより、ネズミの体内で免疫細胞であるT細胞に腫瘍細胞を攻撃させ、腫瘍を劇的に縮小できることを発見しました。つまり、免疫細胞のブレーキをとってやると、免疫細胞の力は増大しフル稼働します。その力を利用してがん細胞を死滅させることができたのです。

②免疫細胞のブレーキ「PD−1」の発見

さらに研究が進み、1990年代には日本で、死にかけたT細胞で発現する「PD−1」というタンパクが発見されました。このタンパクも、免疫細胞であるT細胞のブレーキとして働いていたことがわかりました。

③最近のがん免疫療法の臨床試験での結果

2012年に米国で、約300人の実際のがん患者に上記の「PD−1」の働きを抑える治療を行いました。その結果、31%の悪性黒色腫、29%の腎臓がん、17%の肺がんを半分以下の大きさに縮小させており、がんに対する免疫療法の効果が非常に期待されています。また、2013年には、上記の「CTLA-4」の働きを抑える「イピリムマブ」という新薬が開発され、今までは死を待つのみだった末期の悪性黒色腫患者において、22%が3年以上生存しているという驚きの報告もあります。

免疫療法の将来

免疫治療の発見のおかげで、がん治療には数年前には考えられなかったほどの大きな希望が生まれつつあります。しかし、残念ながら現在のがん免疫療法では、すべてのがん患者に効くわけではありません。また、治療費が高価であるのも問題点となっています。そのため、研究者も研究に全力を尽くしています。今後の研究の成果が期待されます。